| 「ヤスダラ姫は竹野姫(たけのひめ)の話に感じ、かつ自分の苦労の足らぬのを恥づかしく顔赤(あか)らめてオゾオゾしながら、 |
| 『左様でござりましたか、人間といふものは、なかなか容易なことで一生を送ることは出来ませぬな。妾(わたし)たちは貴女(あなた)のことを思へばお話になりませぬ。少しの忍耐もなく夫の牢獄を脱け出し、ノメノメと親兄妹(おやきやうだい)や、思ふ夫を慕(した)うて帰つて来た心のきたなさ、恥づかしさ、実に汗顔(かんがん)の至りでござります』 |
| (北光)『ヤスダラ姫様、御心配なさいますな。あなたはこれから神界のため御活動遊ばすのだ。人の一生は重荷を負(お)うて険(けは)しい山坂(やまさか)を登るやうなものです。いつ険呑(けんのん)な目に遭ふやら、倒れるやら分りませぬ。そこを神様の御神力(ごしんりき)で助けられ、波風荒(なみかぜあら)き世の中を安々(やすやす)と渡るのですよ。さうして自分の身を守りながら、神様の貴(うづ)の御子(みこ)たる天下の万民に誠の道を教へ諭(さと)して、天国に救ひ、霊肉ともに安心立命(あんしんりつめい)を与へるのが神より選(えら)まれたる貴女(あなた)がたの任務だから、いかなる艱難辛苦に遭ふとも、決して落胆したり怨(うら)んだりしてはなりませぬ。何事もこの世の中は人間の自由には木(こ)の葉(は)一枚だつてなるものではない。みんな神の御心(みこころ)のまにまに操縦されてゐるのだから、いかなる事が出て来ようとも惟神(かむながら)に任し、人間は人間としての最善の努力を捧(ささ)ぐればよいのです。この竜雲(りううん)さまだつて、始めはずゐぶん虫のよい考へを起こし、得意の時代もあつたが、たちまち夢は覚めて千仭の谷間へ身を落としたやうに、見すぼらしい乞食とまでなり果て、ここに翻然として天地(てんち)の誠を覚り、諸国行脚をなし、今は完全な神司(かむつかさ)となり、御神力(ごしんりき)を身に備ふるやうにおなりなさつたのですから、人はどうしても苦労をいたさねば誠の神柱(かむばしら)にはなることは出来ませぬ。この北光(きたてる)の神(かみ)が都矣刈(つむがり)の太刀(たち)を鍛(きた)ふるにも、鉄や鋼(はがね)を烈火の中へ投げ入れ、金床(かなどこ)の上に置いて、金槌(かなづち)をもつて幾度(いくたび)となく錬(ね)り鍛へ叩き伸し、遂には光芒陸離(くわうばうりくり)たる名刀と鍛へるやうなもので、人間も神様の鍛錬を経(へ)なくては駄目です。一つでも多く叩かれた剣(つるぎ)は切れ味もよく、匂ひも美はしきやうなもので、人間も十分に叩かれ苦しめられ、水火(すいくわ)の中を潜(くぐ)つて来ねば駄目です。これからこの北光(きたてる)の神(かみ)が、あなたの恋(こ)ふるセーラン王に面会させますが、決して安心をしてはなりませぬぞ。吾々夫婦のごとく互ひに手配(てくば)りをして、誠の道につくさねばなりませぬ。いつまでも若い身をもつて、天下擾乱(てんかぜうらん)のこの場合、夫婦が安楽に情味(じやうみ)を楽しむといふ事はできませぬ。生者必滅会者定離、別離の苦しみは人間は愚(おろ)か、万物に至るまで免(のが)れ難(がた)きところ、この点を十分に御承知を願つておかねばなりませぬ。やがてセーラン王は二三の忠誠なる僕(しもべ)に守られ、ここにお出(い)でになりませう』 |
| 『ハイ、有難うござります。何から何まで御親切の御教訓、きつと肝(きも)に銘じて忘却いたしませぬ。いな何事も神様の仰(おほ)せを遵奉いたしまして、天晴れ神柱(かむばしら)と鍛へていただく覚悟でござります』」 |
| 『霊界物語』第41巻・第14章「慈訓」 |